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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

オーチユーの謎

 山階鳥類研究所より寄託されている標本の中に、カラスバトの剥製がある。この標本は明治時代のものと思われるが、台座に「土語 オーチユー」と墨書されている。はて、オーチユーとは? そんな地方名は聞いたことがない。第一、このユは小さいユの可能性もある。しばらく考えて、漢字で烏鳩と書いて中国語で読めば「オーヂュウ」「オーチュウ」「オーチョウ」などと聞こえるであろう、と気づいた。そうか! この鳥は山東省にも分布するから、これはきっと中国産で、現地語を書き込んであったのだ。ところがラベルには「アカガシラカラスバト」とも書いてある。これは困った。アカガシラカラスバトは小笠原固有亜種で、中国には分布しない。では小笠原に中国語が伝わって? 1826年から50年ほど、小笠原には様々な国の人が来ては去っていたようであるし、中国語が持ち込まれていたことも、あっただろうか? それとも、「アカガシラ」の方が間違い? 古い標本にはこういった謎と悩みが尽きない。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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