JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

牙の行方

 IMTには今年の干支、イノシシの頭骨がいくつかある。イノシシは成長すると犬歯が長く伸び、口の外まで斜め上に突き出して来る。ではイノシシの牙は下顎から生えているのか? 答えは「半分正解」だ。イノシシの牙は上下にあるが、どちらも同じ向きに伸びる。こればかりは実物を見ていただかないと意味がわからないと思うが、上顎の歯槽の一部が横方向にはみ出して捲れ上がり、上顎の牙も横向きに生えて来るからだ。また、上下顎の犬歯は前後に並んでおり、しかもピタリと合わさるようになっている。口を閉じていると1本の牙のようにも見えるが、実際は2本だ。そして、合わせ目が常に磨かれているがゆえに、そのエッジは鈍角ながらも触れれば切れそうな鋭さを保ち、鉈や鎌といった「道具」としての凄みを漂わせている。もう一つ、奇怪な牙を持つのが東南アジアに住む、イノシシに近縁な動物であるバビルーサだ。これはもう、ここに書くよりも展示中の頭骨を見ていただく方が早い。何がどうなっているのか首をひねるのも一興である。

松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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