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RESEARCHERS COLUMN

三宅秀書簡集成(1)――植物学者・白井光太郎(1863-1932)

 当館所蔵三宅コレクションの書簡の一部を紹介していく。白井光太郎は東京帝国大学農科大学教授(1907-1925)で、わが国の菌学特に植物病理学の開祖である。森林植物学の開拓にも貢献、本草学史研究の先駆者でもある。白井から三宅秀(1848-1938)宛ての書簡は、阿部檪斎翁の事蹟についてご教示を賜ったことにより、取調の方針を得たとの礼状である。江戸後期の本草家・阿部檪斎(1805-1870)は採薬使として知られる阿部将翁の曾孫で、岩崎灌園に学び、文久元年(1861)咸臨丸による幕府の小笠原諸島調査に加わった人物である。白井の未完の著書『本草百家伝』(木村陽二郎編『白井光太郎著作集第VI巻』科学書院、1990年)に「阿部檪斎」の項目があり、そのための質疑応答であろう。白井は1910年、三宅が古道具屋で購入した腊葉帖の鑑定を依頼され、渋江長伯が文化年間に作製したものと判断している。後年には三宅の講演筆記寄贈に対し、白井は天明飢饉が黒砂糖の需要の契機であると教示するなど、分野を超えた二人の交流は長く続いた。

白石愛(東京大学総合研究博物館特任助教)

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