JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

博物学の等角図

 開催中の特別展示は、リンネを中心にスウェーデンのウプサラで生まれ、近代博物学の王道を築いた学術資料を直に観る絶好の機会である。リンネの弟子ツュンベルクが1775-1776年の日本滞在から母国へ持ち帰った工芸品など10点あまりの小物も、「里帰り品」として展示されている。ツュンベルクが帰国後に著した『ヨーロッパ、アフリカ、アジア紀行』(1770-1779年)の図版で詳細に描かれ、ジャポニズムに先がけて欧州に「日本趣味」を普及させるうえで重要な役割を担った民族学標本である。ツュンベルクに代表される西洋の学者を通じて近代西洋博物学が日本に導入され、従来の本草学の学術的枠組みを抜本的に革新したことは周知の通りである。一方、彼らが母国に持ち帰った日本の工芸品や絵には、19世紀ヨーロッパの美的感覚を一新させる造形美とそれを支える独自の美術的手法が凝縮されていた。特に、本草学の和本に収められている水彩画や木版を観ると、遠近法を用いない、平たい空間表現が特徴的である。等角図に基づくこの大胆な空間表現は、標本描写に新たな可能性を与えただけではなく、空間認識そのものを変えるものであった。そういう意味で、本草学資料の国際的な再評価の時期が来たともいえよう。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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